作業付帯時間
作業付帯時間は、労働時間とされるのでしょうか?
作業付帯時間と労働時間
労働時間に前後する付帯時間は、どこまでが労働時間になるのでしょうか。 作業付帯時間には、作業着への着替え、掃除や整理、入浴、後片付けなどいろいろあります。
これらの時間が労働時間になるかどうかは、それが、その作業や業務にとって必要不可欠かつその行為が労働者の自由裁量で任意的に行われるものではなく、使用者の指揮命令によって強制的に行われるとみられる時間であれば労働時間になるとされています。
<必要不可欠事項>
- 法令上不可欠のもの
法令により一定の準備や後始末が定められている場合で、これを使用者の指揮命令下で行うとき。
Ex.保護衣、保護具等の装着等が義務付けられている場合、作業後の身体の洗浄が義務付けられている場合など - 性質上不可欠のもの
その作業を行う場合に作業の性質上、必ず一定の準備や後始末を要する場合で、該当作業について指揮命令されているとき。
Ex.始業時の点検、用具の整備、作業後の格納、清掃など - 社則上不可欠のもの
作業の性質上不可欠とまでは言えないが、社内の規則や内規等で義務とされている準備、後始末。
Ex.ゼロ災運動の危険予知訓練、朝礼や終礼等が規定されており、怠ると不利益がある場合など - 慣習上不可欠のもの
慣習上、義務化もしくは制度化されており、かつそれを行わないと何らかの不利益が予想される準備や後始末。
Ex.鍵当番としての始業前の開鍵、輪番制で実施している義務的な清掃、店舗の整理など
作業準備・後始末の一般的な見解・判断基準
労働時間となるかの判断
労働時間とは、労働者が使用者に労務を提供し、現実にその指揮監督下にあり、拘束支配を受けている時間をいいます。
では、作業開始前の清掃時間、作業準備時間、更衣時間、作業終了後の後片付け等、作業に付帯する時間は労働時間となるのでしょうか?
これらは、労働時間になるか否かが常に問題となるところで、一般的にこれらを労働時間と判断する基準には以下のstep2~step6までのような観点があります
使用者命令の有無
使用者の個別的な指示や就業規則、作業心得等により、使用者の指揮監督下で一定の作業が労働者に明確に義務付けられている場合、労働時間となります。
法令で義務付けられている
労働安全衛生法に基づく労働安全衛生規則では、労働者に対し一定の服装や用具等を着用すべきことが事業者に命ぜられており、また労働者も、それを遵守しないと罰則が科せられることとなります。
このような場合、法令上義務付けられているものであるので、そのために要する時間は原則的には労働時間となりますが、中には労働者側の行うべき適正な服装義務の範囲内であって、労働時間とはならないと解されることもあります。
労働時間になると解される場合(法令上の義務としてやらなければならないこと)
- 高熱物取扱いや腐食性液体圧送作業の場合の保護服の着用(255条、327条)
- 高圧活線作業者の絶縁用保護具、防具の装着(341条)
- 坑内作業の空気呼吸器、ホースマスク等の着用(583条)
- 有害作業、有毒作業、病原体汚染作業等の保護衣、保護眼鏡、保護具、保護手袋の着用等(593条、594条)
労働時間にならないと解される場合(労働者側の行うべき適正な服装義務の範囲)
- 動力駆動機械に頭髪または被服が巻き込まれるおそれのある場合の作業帽、作業服の着用(110条)
- 物体の飛来、落下危険防止のための保護帽の着用(366条、517条の10、539条)
- 安全靴等の着用(558条)
黙示的な命令がある
上記のようなはっきりとした使用者の命令がない場合であっても、それを行わないことについて就業規則等において不利益が定められていたり、事実上不利益な取り扱いがなされたりしている場合には、現実にはその作業について指示があったものと同じことであるため、黙示的な命令があるとして労働時間となります。
ただし、始業時刻以後に行ってよいものを労働者自身の意思によって始業前に行った場合には、任意時間となり労働時間とはなりません。
当該作業を行うために必然的である
当該作業を行う上で必然的なものであり、かつ、それを使用者の命令下で行う必要のあるものである場合、その付帯作業は労働時間となります。
例えば、坑内の労働で、キャップランプの受け渡し、火気発火源などの点検等の準備時間などがそれにあたります
当該作業を行うために通常必要とされる
当該作業を行う上で通常付帯している作業であり、かつ通常指揮命令下にあるものは、労働時間となります。
具体的には以下のようなものがあります。
- 製造工場において、翌日始業と同時に作業を開始できるように清掃したり、原材料を準備したりすること
- デパートなどで開店と同時に全員が持ち場について客を迎える必要がある場合の開店準備作業
- 商店等において、閉店後に行う売上の計算や在庫の確認
始業前の清掃・お茶準備時間と労働時間の判断基準
使用者の黙示の命令または義務的な場合
始業時間前に、主に女性社員が簡単な雑巾がけや湯茶の準備をしているところが多くあります。
多くは慣行的に行われているものと考えられます。
始業前にこのような行動を命じて義務的に行わせていたり、実施の拘束があり事実上の強制を伴う当番制として行わせていたりしており、使用者がその強制的な実施を知りながら容認している場合には労働時間となります。
このような場合、黙示の業務命令があった、もしくは早出残業についての黙示の承認があったという取り扱いになります。ただし、当番制とせずに任意に行う自発的な場合には労働時間とはなりません。
ポイントとなるのは、本人の任意による自発的なものか、事実上の強制となるものかどうかです。
自主的で任意にやっている場合
職場環境維持のために自主的に行っている場合や、たとえ業務上の必要があっても自由任意性が明らかな場合は 労働時間とはなりません。
整理整頓、機械の点検調整等
整理整頓、機械の点検調整等
一般的に、使用者の指揮命令下に行う作業準備時間であれば、労働時間に含めます。 しかし、作業準備時間といっても、その内容は千差万別で全てを一律に決めることは出来ません。
具体的に労働時間に該当するかどうかは作業準備の様態に応じて、一般的な判断基準を参考にして判断することになります。
作業部署についた後で行う、原材料や製品の整理整頓、機械の点検調整等については、その部署で行う本来の作業にとって通常必要とされる前提ないし付随的な準備作業であり、通常は使用者の指揮命令下にあるので労働時間となります。
当日の作業に必要なものの準備作業
職場到着後作業部署につく前に行う、当日の作業に必要なものの準備作業は、例えば、当日の作業に必要な保護具の取り出し、点検、装着や、資材や用品の受け出し等も、作業に必要で事前に行うことが義務付けられているときは労働時間となります。
現場到着後に行う作業手順の検討
現場到着後に行う作業手順の検討など、 始業時間前の自発的かつ労働者の自由任意にゆだねられているものは労働時間にはなりません。
しかし、事前に使用者が、それが完全に行われているか朝礼等で点検等を行っているような場合は、点検開始後は任意時間とは言えず、集合して全員で検討する時間も、参加が強制的になるので労働時間となります。
担当職場に到着以前に行う準備作業
入門後担当職場に到着以前に行う準備作業、 例えば、作業服への着替え、ネームプレートやフィルムバッジの装着、安全靴への履き替え等の準備作業については、一般的には労働者の完全な服装で労務を提供する義務の履行として労働者側の時間であるとともに、具体的な指揮命令下にあるとは言えないので、原則的に労働時間には該当しません。
しかし、使用者の指揮命令下に一斉に行われるときは労働時間となります
-通勤時間の判断基準-
一般通勤時間
-特殊な労働時間制度-
変形労働時間